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祖父のこと

祖父は私が大学に入る前に死んだ。 粋なじいさんだった。タバコはマイルドでないセブンのわりに甘党で、ホットミルクにインスタントコーヒーを溶いたものにシュガーカットというカロリーオフの甘い液体をたっぷり入れて飲むのが好きな人だった。 好きな作家は松本清張に水上勉。円地文子の文庫も数冊あった。(ちなみに円地文子の女坂は今私の手元にある。) どこかの郵便局の局長さんをしていて、アルバイトでやってきた16も年下の祖母をかっさらったらしい。祖母は町内一の美女で、なんちゃら小町と言われていた、と祖母亡き後祖父がよく自慢気に話していた。 なかなかのお洒落さんでもあった。 郵便局の前は現在も銀座にある帽子のトラヤで働いていたためか、彼のハンチングのコレクションはかなりのものだった。私の記憶にある祖父はもう定年を迎えていたが、嘱託で働いていたらしく、通勤時にはハットと細身の無地のネクタイ、休日にはハンチングとループタイという出で立ちが強く記憶に残っている。 たまに私と姉を関内にある馬車道十番館に連れていってくれた。「今日は孫とランチに来ました」とうれしそうにウェイトレスに言いながら席についていた。私はここでケーキを食べた記憶はあまり無く、2階のレストランで家族と食事をするのが常だった。 祖母が63という年齢で無くなったあと、祖父は3年間、本当に毎日泣いていた。思春期を迎えようとしていた私は少し煙たいと思いながらも、行くと必ず生クリーム入りのチョコをくれるから、と遊びにいっては話を聞いていた。 祖父が暮らしていた家は実家のとなりで、現在は人に貸している。私はかれこれ15年以上その家に足を踏み入れたことがない。 彼が丁寧に手入れをしていた庭には、よく刈りこまれた椿の木が3本と、早春には水仙、ボケの花、蝋梅などが咲き、春にはチューリップやヒヤシンス、5月を迎えると藤棚などが楽しめた。祖父が亡くなる前はまだ小さかったさくらんぼの木は今や大きく、その隣の大島桜の白い花びらは実に見事だ。 縁側はふたつあって、祖父が作ったらしい三角形の縁側を私は「さんかくのお縁」と呼んでいた。花火をするのによい場所だった。 不思議なもので、祖父や祖母の命日が近くなると、やたらと彼らのことを思い出す。今はそのどちらでもないけれどやけに思い出すのは、銀座で粋なじいさんを見たからなのかもしれない。 ...

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RICOH GXR

思い立って、松本

この間、ふと思い立って松本へ行って来ました。 特に何をしに行ったというわけではないのですが、最近なかなかシャッターを押せなくなっていることに気づいてやや不安を感じていたのが理由といえば理由なのでしょうか。 信州は昔からよく訪れていましたが、とりわけ松本は好きな街です。城下町ならではの落ち着いた美しい街並みと、うまい蕎麦。もちろん現在住んでいる場所も大好きな街ではありますが、わざわざ訪れる好きな街でカメラを構える気持ちはまた少し違ったもの。 結局、「ごく普通のいい写真」が撮りたかっただけなのかもしれません。 ...

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Nikon D90

夜の銀スナ

昨日はふと思い立って夕食後カメラを持って夜スナップしに銀座へ。 そして何故かカメラは一眼。日頃小型カメラばかり使用しているのでひさびさのずっしりとした重みがどこか気持ちよく感じたのも束の間、帰る頃には右手の親指の付け根が妙な感じ。 しかしやはり重いカメラはブレないのがいいですね。 少し明るくなってきた銀座の夜はやはり華やか。これからもお散歩がてらちょくちょく出歩くことになりそうです。 ...

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