風景を失くす

Tuesday, February 10, 2015


実家を売りに出す、と聞いて複雑な気持ちになった。
寂しい、というのも少し違う。家が無くなってしまうことが寂しいのではない。でも、あの庭が無くなってしまうと思うと、とても寂しい。幼いころ遊んだ飛び石や、3本並んだ椿の木、私が小学生の頃祖父が植えたさくらんぼの木や、2階の部屋から見るのを楽しみにしていた大島桜。庭で眠っている2頭の犬。縁側からいつも見ていた風景。

そんなことを考えながらふらふらと買い物へ出かけたら、閉店間際の花屋でかわいいパンジーが売っていたので買った。「このパンジー、涼しい所に置いておけばかなり持ちますよ」と。パンジーを左手に持って歩きながら、ああそうか、もう「ただいま」と言えないのかと思うと涙が出そうになったので、いつもと少し違うお酒を、と思ってシェリーを買った。

自分の育った風景を失うというのは、思っていたよりも辛いことなのだ、と思った。
遅かれ早かれいずれやってくること。でも願わくば、今年の大島桜が散るまでは見届けたい。

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