大門美奈写真集「浜」(赤々舎)について

Saturday, May 18, 2019


昨年11月に発売した写真集「浜」(発行:赤々舎)について。

茅ヶ崎に転居してまもなく5年になりますが、住むというのは家に居住するということだけでなく、その風景に身を置くことなのだと改めて感じます。
同じ風景のなかで共通認識としての「浜」を持つことは、ある種の身体的な繋がりさえも感じるものです。

この写真集は赤々舎の姫野さんのご紹介により、HON DESIGNの北尾崇さんにアートディレクションしていただきました。
思い通りの仕上がりがとても嬉しくて、しばらく写真集を抱いていたのを覚えています。
キヤノンギャラリーでの写真展が決まってから急遽写真集の出版が決まりましたが、出版してよかった。現在まで4箇所で個展を行いましたが、その間多くの方の手にこの写真集が渡っていったことをとても嬉しく思います。

特に印象に残ったのが、「写真集を見ていたらもう一度展示を見たくなって」と何度も展示に足を運んでいただいたり、何度か来ているうちにやっぱり写真集を買おうと思った、と手にとってくださった方がいらしたこと。


表紙は砂のような、ざらりとした手触りの素材にしてもらいました。題字は北尾さんと同じく京都在住のデザイン書道家、臼井彰さんによるもの。
大らかで力強い書体でありながら、優しい印象に仕上げてくださいました。

改めて写真集の紹介でした。

大門美奈写真集「浜」
アートディレクション:北尾崇​(​HON DESIGN​)​
発行:赤々舎
サイズ:299 mm × 225 mm
ページ数:72​ページ
上製本
​販売先:
​全国の書店​ほか
http://www.akaaka.com/publishing/daimonmina.html​(赤々舎)
https://amzn.to/2YFflZJ​(Amazon)
https://minadaimon.stores.jp/(大門美奈)​



​【ステートメント】​

セツさんが2018年の2月に亡くなった。
セツさんは、茅ヶ崎ではじめて親しくなった友人だ。
サーフショップの社長が「茅ヶ崎に住んでいるならセツに会いに行け」と言う。どこにいるのか聞くと家にほど近い居酒屋に毎日いるからそこへ行けば会える、と。
そこで出会ったのがセツさんだった。一言で言うならば、海とともにあった人だ。

あるとき、セツさんに呼び出されて浜へ行くと、セツさんと爺さんがいた。
爺さんはこの浜で長年地引網をしている漁師だという。「サミー・デイビス Jr. みたいでしょ」とセツさんが言うので、以来、その爺さん を「サミー」と呼んでいる。
浜で過ごしていると、名前などなくても、自分が何者であるのか話す必要などないように思えてくる。
浜で会い、時には一緒にお酒を飲んだりしていてもお互いの職業も年齢も、本名すら知らないのだ。
そんな非常に緩い、しかし確実に誰かと繋がっていることのできることを実感できる場所が、私にとっての浜なのだ。

またある日、いつものようにカメラを持って浜へ行った。当たり前のようにスナップをしていると、サミー が「なぜ写真を撮るのか」と聞いてきた。
私が自分の生業を説明し、改めて撮らせてほしいと頼むと、頭に巻いていたタオルを取って「おう、じゃあ撮んなよ」といつもの相州弁で応じてくれた。 自分のことを話し たのはこのときだけだ。

海から受ける恩恵は大きい。
魚が新鮮だ、景色が良い、といったことだけでなく、海がそこにあるというだ けで生活自体が変わるのだ。
ここに写っているのは、たった4年の出来事。
たった数年でも、浜も、浜からの風景も、浜の人々もどんどん変わってゆく。
ノスタルジーではない。人々の関係性のなかで築かれてきたこの浜を、何らかの形で残さなければという、半ば使命感にも似た気持ちでいる。
それが、この浜や、浜で出会った人たちへの恩返しになるのではないかと。
今でも浜へ行くと、オレンジ色の自転車に乗ったセツさんがふらりとやってくる気がしてならない。
私がこ の「浜」という居場所に出会えたのは、人と人との繋がりが導いてくれた必然なのだ。





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